(株)NBワークス社発行の医療雑誌「Naotta! 治った」
2001年12月号に掲載されている内容。


加齢にともななう目のトラブル110番
東洋医学に基づいた鍼灸治療で 目のトラブルを改善
翁鍼灸治療院 翁孟進院長

緑内障や眼精疲労に、鍼灸治療の有効性が注目されている。急性緑内障のように、西洋医学の投薬が必要な疾患もあるが、西洋医学と鍼灸治療を併用することによって、症状の改善が期待できる目の疾患は意外に多い。
 
  緑内障、眼精疲労、視神経炎などに有効

 目の疾患と鍼灸治療は、一見、あまり縁がないように思えるが、
「当院に鍼灸治療のために来院する患者さんの中でも、目のトラブルを訴えて来る人は、腰痛と肩こりに次いで多いんです」
意外な事実を話すのは、東京世田谷区・翁鍼灸院の翁孟進院長。
目のトラブルとひと口に言っても、その症状はさまざまだが、加齢にともなって起こる目の疾患でハリや灸による治療が適合するのは、緑内障、白内障、ドライアイ、眼精疲労、視神経炎などだ。
「緑内障で来院する患者さんでは、開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障の方がほとんどです。東洋医学では、緑内障という病名はありませんが、古代中国医学書『鍼灸大成』『針灸甲乙経』などの書物の中に、眼科の針灸取穴が記載されており、緑内障の症状と治療法が含まれていると思われます。現代の緑内障の鍼灸治療は、1956年に報告があり、鍼灸治療によってある程度、眼圧を低下させられることが観察されています。この病気についての原理研究はあまり報告されていませんが、中国中医大学で原発性緑内障患者の刺鍼前後の眼球の血流変化を調べた結果、刺鍼は毛様体血管に対して大きな調整作用があることがわかっています。おそらくその作用によって視神経乳頭の虚血など微少な循環障害を解消させ、目の機能障害を回復させるからでしょう
 ただ、同じ緑内障でも、「急性緑内障は要注意」と翁院長は警告する。
急性緑内障の典型的な症状は、暗いところで瞳が大きくなった時に突然目が痛み、電灯のまわりに虹がかかったようになる。強い頭痛がして嘔吐することもある。瞳孔が開き、目が赤くなり、「見えない」という症状を訴えた場合は、ただちに眼科に行って眼圧を下げる薬を点滴する処置をとらなければならない。そのまま放置しておくと、1週間で50%以上の確率で失明し、治ったとしても視野が欠けることになるという。薬を点滴すれば症状はすぐに治まるので、右のような症状が出た場合は、救急眼科で早急に手当てをすることが必要だ。





治療例A
53歳男性 デザイナー(初診:2000年8月)
6年前に糖尿病と診断され、2年前に軽い脳梗塞。都内の大学病院で糖尿病による視神経炎と診断される。視力低下、色が識別しにくいとの症状を訴える。
治療:四診の後、目の治療とともに糖尿病のハリ治療も同時に行う。まず、背中の消化系のツボに対してハリと温灸療法を行う。次に目のまわりにある目の特効のツボ「清明」「救後」などを中心にハリ治療を行う。
経過:週2回のペースで通院し、3ヶ月後、眼科で調べたところ、視力が0.3以上あがり、細かい色も識別できるようになってきた。デザイナーの仕事にもほとんど支障がないくらい回復したとのこと。現在も健康管理のため、2週間に1回のペースで通院。
考察:鍼灸治療により、視神経炎の症状が抑えられて、神経の働きが活発になったと考えられる。また、鍼灸で内分泌系や自律神経の調整、ホルモン(インシュリン)のバランスを整えられたと思う。

治療例B
55歳女性 主婦(初診:2001年2月)
総合病院で緑内障と診断され、2ヶ月前から目にモヤが出る、右目で上を見ると下が見えない(視野が欠損)などの症状がある。
治療:四診と簡単な視野テストの後、眼鍼療法を中心に行う。
経過:1週間に1回のペースで通院。4ヶ月後、視野は大きく変わらないが、視力が0.2くらいあがる。現在も総合病院の治療を受けながら通院中。
考察:鍼灸治療により眼圧を下降させ、安定させることによって、視神経の障害を最小限にして、視野狭窄の進行を遅らせることはいくらか可能性がある。鍼灸は副作用がないということで受けてみるが価値があると思う。

中国における鍼灸 中国では、鍼灸は古代から漢方薬とともに医療の一分野を担ってきた歴史があり、現代でも西洋医学の補助ではなく、西洋医学と同じレベルとしての認知度がある。鍼灸治療の対象は疾病ではなく患者である。鍼灸などで刺激してツボに働きかけ、身体の自然治癒力を目覚めさせて健康を回復させる、自然療法なので比較的身体にやさしく、また予防医学とも言われている。

 
  西洋医学との組み合わせで相乗効果

 目の疾患に対する鍼灸治療はまだ完成されているとはいえないが、「急性緑内障以外の眼科疾患は、西洋医学との組み合わせにより相乗効果が認められており、症状の改善と進行を遅らせることは可能」と翁院長は言う。
 では、実際に鍼灸でどのような治療を行うのか、翁鍼灸院の具体的な治療例とともに見てみよう。
 東洋医学は、ひとつの症状だけでなく、からだの全体を見て患者の体質を知り、診断を下す医学であり、そのためにまず「四診」(望診、聞診、問診、切診)による診察を行う。

四診とは

望診 舌の状態や全身の皮膚の状態でからだ全体と病気の部位を目で見て推察していく診断法。

聞診 患者のしゃべり方、声の明瞭さ、問いかけに対する応答、体臭や息のにおい、排泄物のにおいなど、聴覚や嗅覚による情報を収集する診断法。

問診 東洋医学の理論に沿って、患者への問診により、さまざまなからだ全体の調子を聞いていく診断法。

切診 手で実際に患者の体に触れ、脈の打つ波形・強さを診たり、腹部の堅さを調べたりするなどして情報を収集する。西洋医学でいう触診にあたる。



 四診の後、眼の周囲のツボにハリを刺す眼鍼療法を中心に施術するが、症状と患者の敏感さによっていくつかの療法を併用することもある。眼と関係がある足や手のツボを使ったハリ治療、症状によってはお灸や目のマッサージも積極的に行われる。
 翁鍼灸院では、眼科疾患のハリ治療には中国鍼を用いている。中国鍼の中でもおもに顔面のツボに使われる、最も細いハリが用いられる。目のまわりは、肩や腰などに比べて痛みを感じやすい部位だが、体質や敏感さに応じて刺激と手技を変えて治療を行っており、痛みを感じることはないそうだ。
 治療期間は、症状と病因によるが、回復するまでには通常2〜3ヶ月を要する。翁院長は「視力が完全に落ちないうちに治療すれば、効果が出やすい」と言う。

 


 
  疲れ目に効くマッサージと眼球体操

 パソコンやテレビゲームが生活の一部になっている現代、「目が痛い、重い、ズキズキする、ものが見えにくい」などの眼精疲労の症状を訴える人が増えている。翁鍼灸院にも、加齢にともなう目のトラブルで訪れる患者のほか、眼精疲労を訴えて来院する若い女性が多い。
 眼精疲労は、鍼灸治療の効果が期待できる症状のひとつで、特に目のまわりの運動筋肉の調節機能低下を原因とするものは、鍼灸治療が有効だという。おもな治療法として、眼の毛様体筋の疲労を改善するため、筋緊張、圧痛、硬結などの反応が見られる眼の周囲および後頭部のツボに、ソフトな刺激を与える鍼灸治療が行われる。
 眼精疲労が激しくなると、視力低下だけでなく、肩こり、頭痛、胃の不調、全体の倦怠感といったからだの異常に発展することもあるので、「たかが目の疲れ」とあなどらず、十分注意しなければならない。
 眼精疲労、いわゆる「疲れ目」は、眼の酷使だけが原因とばかりは限らず、長時間の労働や寝不足からくる身体の疲れや、精神的なストレスが重なって起こる場合も多い。ただ、「原因が生理的なものであれば、リラックスしたり軽い運動によって目の筋肉をほぐしさえすれば回復する」と翁院長はアドバイスする。目が疲れた、ショボショボすると感じたら、イラストを参考に、マッサージや眼球体操、アイスパックなどを行って、疲労回復に努めてみるといいだろう。

ツボとは? 中国鍼灸医学では、皮膚表面と内臓を結ぶ情報伝達系の道を「経絡」といい、その上の特定の場所を経穴(ツボ)という。おもな経絡は20、ツボは約700あるといわれるが、世界保健機構(WHO)が認める経絡は14、ツボは361である。ツボには内臓の異常などが現れるので、そこが診断や治療の場所となる。ツボで身体の状態を知り、刺激を与えることにより体調を整えていくことができる。
 
  雑誌の内容

NBワークス社発行の医療雑誌「Naotta! 治った」2001年12月号 30P〜35Pに掲載されまた。