顔面神経麻痺と鍼灸治療

顔面神経麻痺になったらどうすればいいか?

顔面神経麻痺の治療法

麻痺にかかったら病院では何科に行けばよいか、またどんな治療法をすればよいのか迷っている方々が多いと思います。一般的にまず耳鼻科へ行きます。 必要なら脳神経内科などが紹介されます。脳血管障害(脳梗塞、脳内出血)による中枢性の顔面神経麻痺が疑われる場合は、CTやMRIの検査を行います。また帯状疱疹のウイルスによるハンド症候群の場合は血液を検査することもあります。病院で行う主な治療法は最初副腎皮質ステロイドや抗ウイルス剤の点滴、また経口副腎皮質ホルモン剤を服用し、10日後に血流改善剤、ビタミン剤や神経賦活剤などが薬が処方されます。病院によっては顔面神経減荷術の手術や星状神経節ブロックなどを行うところもあります。手術の後遺症を伴うなどのリスクが高いですし、因果関係はまだはっきりしていないということで、現状ではよい治療法とは言いきれません。

顔面神経麻痺とはどんな病気か

顔面神経について
ある日突然顔の半分、あるいは一部分が思うように動かせなくなる状態のことをいいます。顔が曲がっていたり、まぶたが閉じられないので眼が乾燥して痛かったり、口が閉じられないため食べたものがこぼれてうまく食事ができなかったりします。その他には味がおかしい、ツバがでにくい、などの訴えも出てきます大勢の顔面神経麻痺の方は発症の1~2日前、耳の回りに痛みがあることが多くみられます。

ベル麻痺

ベル麻痺の主な原因は単純性ヘルペスウイルスにより発症したと言われています。何らかの原因により神経細胞内でヘルペスウイルスが増殖し、その結果、神経線維の炎症が起こり側頭骨内で顔面神経が腫れることにより、突然に顔面の麻痺が生じます。原因としては、疲労や冷たい風、ストレス、妊娠などが知られていいますが、ベル麻痺では原因がはっきりしないことも多く、特発性麻痺とも呼ばれます。ベル麻痺は末梢性の顔面神経麻痺の中の最も多いケースですが、原因不明の麻痺は通称「ベル麻痺」です。ベル麻痺は、顔面麻痺全体の70%ほどを占めます。ベル麻痺全体の8割の程度は1年以内にほとんど後遺症を残さずに治りますが、残りの1割に異常共同運動を伴う後遺症が残ります。

ラムゼイ・ハント症候群

耳を中心におこったこの水痘帯状疱疹(すいとうたいじょうほうしん)のことです。このウイルスは、水ぼうそうが治った後もからだのいろいろな神経節の中に潜んでいます。まだ原因ははっきりとわかっていませんが、疲労、精神的ストレス、日光照射、発熱などの刺激や、糖尿病の悪化、などをきっかけに再活性化にともない顔面神経が傷害されて発症すると言われています。ハント症候群はベル麻痺とともに末梢性顔面神経麻痺の2大原因の一つで、顔面麻痺全体の10%ほどを占めます。主な症状は、耳の周辺の発赤と水ぶくれ、のどの痛み、耳鳴りなどで、ベル麻痺と区別がつきやすいものですが、ベル麻痺かハント症候群か区別のつかないこともあります。ハント症候群はベル麻痺とともに末梢性顔面神経麻痺の2大原因の一つで、顔面麻痺全体の10%ほどを占めます。ちなみに、ベル麻痺は全体の約70%程度です。

末梢神経麻痺の主な症状

  • 麻痺側の前額郡の「シワ」がなくなり、又「シワ」を作ることが出来ない。
  • 閉眼が不十分、閉眼を命じると眼球が上方に回転するベル現象を呈す。
  • 口笛が上手く吹けない。うがいができない。
  • 神経麻痺側の鼻唇溝は平坦となり、口角は垂れ下がる。
  • 神経麻痺側の舌の前2/3の味覚障害がでることがある。
  • 涙液分泌障害、唾液分泌障害など。
  • 耳が痛い、高い音や自分の声が響くなど症状。
  • 平衡感覚の異常を呈することもある。(ラムゼイ・ハント症候群の場合)

外傷性顔面神経麻痺について

外傷による顔面神経麻痺の原因としては、交通事故が最も多く、次いで、脳腫瘍の手術、転落事故やスポーツ外傷などとなります。顔面神経の損傷は側頭骨錐体部と乳様突起部の骨折によって生じるものが多く、受傷直後に発生する早発性のものと、受傷後3~7日を経過してから発生する遅発性のものがあります。外傷性顔神麻痺の予後はその麻痺の発生時期で異なり、受傷直後に発生したものは予後がよくなく、遅発性の場合は、自然治癒するものが多く、予後良好と言われています。 早発性のものは、受傷時の骨折により顔面神経が損傷を受けることによって生じ、遅発性のものは、顔面神経の浮腫や血腫が原因であるようです。側頭骨骨折が起こるほど強い衝撃が加わると、顔面神経管内の神経が捻挫により過度に伸びたり、出血や腫脹をきたして顔面神経麻痺が生じます。

中枢性顔面神経麻痺について

中枢性顔面神経麻痺は、核上性顔面神経麻痺ともいわれます。中枢性顔面神経麻痺とは、大脳皮質から皮質延髄路、皮質網様体路など、顔面神経核に至るまでに原因がある場合に起こる顔面神経麻痺の総称です。脳卒中の発作後、または後遺症として、しばしば身体に運動麻痺が起こるのは、大脳皮質に局在する運動中枢が障害を受けるためです。中枢性の顔面神経マヒの鑑別(見分け方)方法は、 ・麻痺している側の額のしわをつくることができる。
・麻痺側の閉眼が出来る。
・麻痺の程度がひどくない。
・手や足の痺れ、麻痺などが同時に出現する。などがあげられる。

顔面神経ってどんな神経

顔面神経麻痺 顔面神経の支配範囲
顔面神経は左右の脳幹から内耳道、中耳腔を通って顔面に出る脳神経の一つである。顔面筋肉の運動や舌の味覚の一部、さらには涙腺、舌下腺などに分布する副交感神経などをつかさどる神経で、顔面神経麻痺とはこの神経が様々な原因で障害され、顔面機能が消失する病気です。末梢に走行する主な顔面神経線維は右の図のようです。顔面神経麻痺は臨床的には中枢牲麻痺と末梢性顔面神経麻痺に分けられます。中枢性顔面麻痺は顔面神経核上病変(上位神経)による麻痺です。原因は脳溢血、脳腫瘍、その他脳内の病変により、発する症状です。

顔面神経麻痺の原因と症状

主な原因

多くの末梢性麻痺の原因はまだ不明です。考えられる可能性として局所浮腫(きょくしょふしゅ)、ウイルス感染、寒冷、末梢血管障害などがあります。いずれにしても、顔面神経麻痺は何らかの原因で顔面神経がはれると顔面神経が圧迫され麻痺が現れると考えられています。臨床で一番多く見られるのがベル麻痺です。また、顔面神経管の中の神経に帯状疱疹ウイルスを感染し、顔面神経麻痺となる場合があります。それをラムゼイ・ハント症候群と呼ばれています。この場合には耳介や外耳道に水泡を伴い、痛みがあることが一般的です。慢性中耳炎、主に真珠腫性中耳炎で顔面神経麻痺が起こることがあります。また、外傷、特に側頭骨の骨折の場合に顔面神経麻痺を伴うこともあります。側頭骨以外の部分で起こる顔面神経麻痺には脳血管障害(いわゆる脳卒中)、脳腫瘍や耳下腺腫瘍があります。

病院での顔面神経麻痺の主な西洋医学療法

顔面麻痺の薬物療法
Ⅰ)副腎皮質ホルモン
急性期治療として経口副腎皮質ホルモンおよび抗ウイルス薬の使用が推奨されてます。麻痺の発症早期に経口副腎皮質ホルモンおよび抗ウイルス薬が使用されることが多いです。発症1週間以内の副腎皮質ホルモン投与が寛解率を17%増加させ、さらに副腎皮質ホルモン投与が後遺症としての病的共同運動(synkinesis)の発症を抑制することが報告されています。完全ベル麻痺に対しては副腎皮質ホルモン大量点滴療法が経口副腎皮質ホルモン療法より有意に改善率が高いことを示す報告があります。

Ⅱ)抗ウイルス薬
抗ウイルス薬の使用については賛否両論ありますが、Bell麻痺患者の唾液から単純ヘルペスⅠ型(HSV-1)が検出されることが報告されてから、抗ウイルス薬使用を支持する根拠となっています。抗ウイルス薬使用が薦められていいます。Bell麻痺の原因として1型単純ヘルペスウイルスがクローズアップされていることも併せて,最近は顔面神経麻痺の急性期治療として副腎皮質ホルモンとの併用で抗ウイルス薬を使用することが推奨されています。

星状神経節ブロック
星状神経節ブロックは根本的に副交感神経の活動を抑制して頭頸部の血流などを改善して麻痺した神経の賦活化をはかるものです。顔面神経麻痺の治療として,国際的に信頼できる評価はほとんどされていません。日本では麻酔医を中心にその有効性が強調され、しばしば実施されています。効果は患者により効く例もあり、そうでない場合もあります。

病院での外科的な治療法
Ⅰ)顔面神経減荷術
急性期特発性顔面神経麻痺はウイルスの感染、真珠腫性中耳炎により神経が圧迫されて、まず薬物療法が行われますが、薬物療法の効果が見られない時などに手術治療を検討します。主に神経周囲の骨を削ることで圧迫から開放して血流の改善を図り、神経の変性をくいとめて顔面神経麻痺を治療します。炎症性腫脹を呈する顔面神経を骨性顔面神経管のレベルで除圧、開放する手術が行われます。これまでの報告はランダム化されていません。副腎皮質ホルモンが併用されているため、エビデンスの高い報告はないようです。また、難聴などの合併症の報告もあります。現時点で日本顔面神経学会より推奨されていません。

Ⅱ)麻痺後遺症に対する外科手術
半年以上経過しても顔面神経機能の回復が見込まれないとき、その機能を回復させるため、幾つかの手技が実施されています。舌下神経から顔面神経吻合術があります。また、健側顔面神経から顔面皮下を通じて患部側へ,末梢神経移植による吻合を行います。一部に筋移植を行う手技も実施されています。

Ⅲ)病的共同運動のボトックス注射
病的共同運動や顔面拘縮など後遺症に対して新しい治療の選択肢として最近登場したのは ボトックス注射による治療法です。発症から一年以上経ってから行います。ボトックス(ボツリヌス毒素)を顔面の筋肉に注射することで、表情筋を一旦麻痺させて、その後リハビリを導入することがあります。ボトックスの効果は3~4ヶ月間持続します。病的共同運動や顔面拘縮は再発するため、多くの場合は再注射が必要になります。

顔面神経の完全麻痺期及び回復期における注意点

Ⅰ低周波(電気鍼)を避ける
低周波(電気)は麻痺側の筋肉を収縮させることによって、回復期では顔面神経核の興奮性が亢進しているために共同運動が出現しやすくなり、顔面拘縮の誘因になることもあります。長い間の鍼灸臨床経験と低周波刺激は禁忌という専門家の意見に基づいて、当院は回復期の顔面麻痺に低周波を使っていません。

Ⅱ顔面神経麻痺のマッサージについて
マッサージは麻痺した顔面筋肉の走行に沿って気持ちのよい強さでけっこうです。または蒸しタオルを使うと、顔面のこわばりに対して効果があります。マッサージ前に使って顔面筋のストレッチングを促します。

Ⅲ粗大筋力訓練は避ける
顔面神経麻痺になって麻痺側の筋力(表情筋)が低下したからと言って、荒っぽく強すぎる筋力訓練をすると中枢レベルの共同運動(後遺症)を誘導しやすなくなります。時間の経過とともに麻痺した筋肉の緊張は亢進し、顔面痙攣や顔面拘縮の誘因になります。

Ⅳ長時間に冷たい風を避ける
冷たい風やアイスを長時間顔面や耳の後ろ(顔面神経の出口)のあたりに当てると顔面神経麻痺になるかたもいます。顔面麻痺の側に冷たい風やアイスは避けたほうがいいです。特に回復期は要注意です。

Ⅴ顔面神経麻痺を治そうという気持ち
顔面神経麻痺になった原因はまだはっきりしないことが多いですが、超多忙の生活やストレスなどによって睡眠時間が極端に少なくなったり、また免疫力や体力が低下したことで麻痺になることも結構あります。できれば規則正しい習慣を身に付けて、自己健康管理をしっかりしましょう。免疫力や体力を高めて、治そうという気持ちを強くもち、常に前向き姿勢で臨むことによって、自然治癒力が高まり、麻痺の回復につながります。

顔面神経麻痺の鍼灸治療について

顔面神経麻痺と鍼灸
鍼灸治療により麻痺した神経や顔面神経管を含めた周辺組織の血流を改善し、また自然治癒力を引き出して、麻痺の回復を促します。顔面神経麻痺は早期治療が大切です。麻痺の症状、や治療開始時期などによって、予後に大きく影響することがあります。一般的に発症して一週間前後から鍼灸施術するのがベストだと言われています。発症初期は病院と並行しての鍼灸施術が可能です。鍼灸のことならお気軽にご相談ください。

顔面神経麻痺の症例

顔面神経麻痺についてテレビで解説
(1)N・Hさん 34歳 男性 ベル麻痺 総合病院で顔面神経麻痺と診断され、ステロイド剤を出された。主訴は「うがいができない」「目が完全に閉じない」。発症10日後に来院。顔面運動評価などテストして顔面神経は不完全麻痺とされる。3週間後は海外出張することになるため、ご本人の希望もあって、一週間に四回の集中的な鍼灸治療を行った。二週間後に麻痺が完全に取れていた。3週後は少し違和感が残っているものの、後遺症を残さず完治した。この方は完全麻痺ではないということも早期回復の要因の一つと思われる。早期の鍼灸と短期集中的な治療もよい効果をもたらすと考えられる。

(2)M・Nさん 35歳 女性 ハント症候群 発症してすぐ入院しステロイド点滴、抗ウィルス剤服用、神経ブロックを受けるがあまり芳しくなく医師に手術を勧められる。顔の左半分マヒ、味覚も感じないところがあり耳が痛い。当初は入院しながら週2回のペースで通院し、退院してからも週2~3回通う。1回ごとの治療では明らかな変化は認められないが、3ヶ月、4ヶ月と経過を見ると徐々に回復が認められるようになり、7~8ヶ月目になると外見上ほとんど顔面マヒだと判らないくらいまで改善する。その後も少しこわばりを感じたり調子があまり良くないときに不定期に鍼灸を受けに来る。勧められた手術を受けずに鍼灸でよくなったことで本人も胸をなでおろしている模様で、予想以上の好結果が得られた。

(3)O・Mさん 49歳 男性 ベル麻痺 病院で1週間ステロイド点滴、その後ビタミン剤服用を続ける。
発症後一週間後に来院。初診での主訴は「口の周りから水が漏れる」 顔を正中腺(中心を通る線)で分けて見ると唇は右側へ引っ張られ、鼻唇溝も非対称となる。額をつり上げるマッサージをするとまぶたもつられて開き、白目が露出する。週に2~3回の治療を受け、3ヶ月ほど経つと顔の印象が整ってきて水も漏れなくなり、白目が露出することがなくなった。また自覚症状としてのこわばりは日を追うごとに改善しているようだが、マッサージをする側からもこわばりが取れていくのがわかった。発症して初診までの2ヶ月弱は全く変化が見られなかったが、治癒をあせらず鍼灸を受け続けたのがよかったと思われる。

(4)E・Tさん 31歳 男性 ベル麻痺 発症の2日後で顔の左半分が完全麻痺、こわばっている感じる。頭痛を伴う。病院ではステロイド点滴と漢方を処方される。二週間後に来院。1回目で頭痛が取れ、こわばりが少しやわらかくなる。1週間に3回のペースで通院し1ヶ月経つと、見た目には分からないくらいまで回復。よく観察すると口を広げるときに左側が少し広がりきらない感じはあるが機能的には問題ない様子。その後は週に1回で何回か通院していて、後遺症を残さずに完治できた。傷害された部位が深くなかったことと発症後すぐに来院したことで、効果的な治療ができ比較的早い回復がみられた。

(5)M・Y さん 20歳 男性 ハント症候群 主訴は「表情が出せない」。発症から5ヶ月ほど経過してからの来院。1回目の治療後、自覚的に顔のこわばりが少し取れた模様。仕事の都合でコンスタントに通院できないが週に1~2回のペースで治療を受け、しばらくすると顔の筋肉に柔軟性が出てくる。異動で東京を離れるまで3ヶ月ほど通い、完全ではないがそれまで自分で思うように作れなかった表情が作れるようになる。治療開始時期が遅く、初診の印象で回復は難しいように思われたが、本人の治りたい気持ちも手伝ってか鍼灸の効果が良く表れた。

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